このあと滅茶苦茶怒られた
お嬢様の体を洗うのにももう慣れた。
最初のころは文化が違うってレベルじゃねーぞって感じで戸惑ったり恥ずかしかったりドン引きしたりもしたけれど、こう何十回も何百回も繰り返しているとさすがになにも感じなくなる。
仕事。
ただの仕事。
どちらかと言えば楽な仕事。
お嬢様は足裏が弱くて、そこに気をつけておけばほとんど問題はおこらない。ドラゴン相手に切った張ったの七転八倒大立ち回りするよりはよっぽど楽な仕事だ。
まあ、ドラゴンを相手にするよりしんどい仕事なんてそうそうないんだけど。というか、あってたまるか。
だいたいあたしは空を飛べる敵が苦手なんだ。あっちが飛んでいる間は攻撃する手段がなくて、どうしても受け身受け身になってしまう。だってあたし空飛べねーもん。向こうだけ攻撃のタイミングを決められるとか絶対ずるいだろ。重力に引かれてこれでもかっていうくらい体重が乗っているし、不利になれば飛んで空へ逃げることもできる。なんだそりゃ。あたしはどうすればいいんだ。石でも投げろってか。馬鹿にしてる。
――なんてことを考えていたせいで、お嬢様の体を洗う手が止まっていた。
我ながらマヌケすぎる。
お嬢様が浴槽のお湯をあたしに向かって蹴り上げた。避けると機嫌が悪化するので黙って受ける。
熱い。
一瞬で濡れねずみ。
濡れそぼった髪も顔もメイド服もそのままに、あたしは顔を上げてお嬢様を見た。湯気の向こうにいつもの笑み。
「あなたの分際でわたくしの許可なく手を休めるなんて、いい度胸ですわね!」
あいかわらずうちのお嬢様は性格が悪い。
そんなんだから将来没落するんですよ、お嬢様。
とは思うけれど言わずに。
「申し訳ありません、お嬢様」
おとなしく頭を下げる。
頭上で笑みの深くなる気配。
超うぜぇ。
あたしは。
警告なしでお嬢様の足裏を撫でた。
「わひゃあ!」
びくんと跳ねた足を左手で掴んで固定。泡をつけた右手の人差し指で、ゆっくりとかかとからつま先までなぞっていく。
「ひっ、あっ、ちょっ」
「どうかされましたか?」
指を二本に増やす。
「やあぁっ――」
いちいち律儀に反応がかえってくる。けっこう楽しい。
撫でてみたり。さすってみたり。つついてみたり。優しく掻いてみたり。
足裏に力が入ってきゅぅっとなったり。お嬢様が浴槽のふちを握りしめたり。足裏から力が抜けたり。力が抜けたところを改めて攻めたり。
楽しすぎる。
ひととおりかふたとおりくらい足裏を弄んで満足したあたしが顔を上げると、耳先まで真っ赤になったお嬢様が涙目であたしのことを睨んでいた。やばい、かわいい、ざまあみろってあたしは笑う。
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